14C/12C(以下、14C同位体比)を表す単位は壊変影響をどう扱うかで多くの形式が考案されてきました。
殆どのお客様には14Cデータ自体を解釈する必要性は薄いかもしれませんが、特に自然科学分野などでは様々な単位で記載した14Cデータで議論されることがあるので、分野によっては14C利用を検討するにはこれら単位の意味の違いは重要かもしれません。
そこで以下では14Cに馴染みがない方のご参考に、見かける頻度の高い単位について違いを概説します。
標準物質と試料、それぞれの実測14C同位体比になされる2種類の補正
14C同位体比は試料とともに測定される標準物質の値を比較対象として表現されます。
これを作業的詳細は省略して言い換えると、どの単位も測定で得た (試料の14C同位体比/標準物質の14C同位体比) を多少加工(%にするなど)したものといえます。しかしこの分子と分母は試料や標準物質の実測値そのままでなく、
・同位体分別の影響補正(以下、分別補正)
・測定時までの壊変による経時変化の影響補正(以下、壊変補正)
の2種類の補正を施すか否かの選択肢があるので、その組み合わせがそれぞれの単位の本質的な違いといえるかもしれません。
ただし、標準物質の実測値はどの単位でも分別補正されます。これは標準物質が測定に至るまでに受けた同位体分別による変化を補正することで、その測定における基準自体が壊変以外の影響(※同位体分別)を受けることを防ぐためです。
以上の前提をもとに、特に目にする頻度が高いと思われる単位を以下のように分類しました。
試料の14C同位体比の処理 | 標準物質の14C同位体比を 崩壊補正せず | 標準物質の14C同位体比を 崩壊補正(1950年時点への逆算)あり |
---|---|---|
分別補正 | pMC, F14C, D14C, | pM, ⊿14C, ※ |
補正なし | d14C | δ14C ※ |
上で青で示した単位は壊変補正で固定値になる標準物質の値に対し、壊変補正なし(時間で減少する)の試料の値を比較するので、測定時の試料14C同位体比の絶対値を表記するうえで適していますが、同じ試料を時間を空けて測ると壊変によって値が減少します。ただし14Cの半減期は5730年のため、その減少による影響は日常的な時間感覚からいえば非常に微々たる変化といえるでしょう(例えば基準年である1950年から2022年現在までの壊変量は約0.86%、)。
これに対し赤で示した単位は経時変化しません。試料も標準物質も壊変補正をしなければどちらも同じ崩壊速度で14C同位体比が減少するのでその比は変化しないためです。
※みかけることは比較的少ないですが特に14Cの空間分布に注目するような研究では試料の値も試料形成年や採取年などの特定の年に壊変補正されていることがあります。このような場合の表記として“Δ”は主な例ですが、“Δ14C”、“δ14C”などの表記が使われる場合もあるのでご注意ください。これらも固定値どうしの比ですので経時変化しません。
試料の14C同位体比/標準物質の14C同位体比 直接の比か、差分(デルタ)表記か
上記の通りそれぞれの補正を施した試料の14C同位体比と標準物質の14C同位体比ですが、これを使って試料の値をどう表現するかも単位によって違います。おおまかには直接の比で示す方法と、両者の14C同位体比の差分(デルタ)を標準物質の値に対する比で表現する方法があります。
・直接比(試料の14C同位体比/標準物質の14C同位体比)…pMCとpMは%表記のため×100、
F14Cは%ではなくそのままの値:標準物質より高い値をもつ試料に使われることが多い
・デルタ表記:(試料の14C同位体比/標準物質の14C同位体比 ー1)×1000 …d14C, D14C, δ14C, ⊿14C
いずれも‰表記のため×1000
14Cデータ表記法は同位体分別と壊変の影響をどう扱うかや扱い易さの主観の違い、14C利用目的への特化(主に環境分野)などの理由で多くの形式が乱立してきました。
ページ下部の総説などのように表記について合意形成が進められてきましたが、それらの文献にも統一が不完全のため注意を要すると記述されている部分が未だあります。
(⊿14C、d14Cの試料の値が壊変補正がない場合、ある場合があるなど。)
既存のデータを参照する場合、14C表記が時間をかけて整理されてきた都合上、各測定者の独自慣行から主流表記に移行するまでに時間差があったり、移行していなかったりする可能性があります。特に測定実施年が古いデータほどその可能性も念頭に置いた方がよいでしょう。
これから14Cを利用される場合には単位の選択も難しく思われるかもしれませんが、分野ごとに主流の表記法があるようですのでご専門に近い分野でよく見る単位を使えば恐らく問題ないかと思われます。
※当HP内「炭素13に並ぶ炭素の指標: 時間&炭素源の指標としての炭素14」のページで紹介している文献は、「検索補助ワード」の項で使われた単位も検索できます。よろしければご参照ください。
なお当社では年代測定など依頼の多い目的には定型的な報告形式がございますが、多岐に渡る環境分野で使われる表記法に関しては通常報告している形式に含まれないものもあります。
ご依頼の際には併せて報告に用いる表記法に関してご指定・ご確認いただけますと滞りなく報告できますので、ご相談をなにとぞよろしくお願いします。
14Cの各種単位・数値処理の解説文献
このページでは特に目にすることの多い印象の単位について概要を整理しましたが、さらなる詳細につきましては以下の文献などが参考になるかと思われます。
「DISCUSSION .’ REPORTING OF 14C DATA」
MINZE’STUIVER, HENRY A POLACH; RADIOCARBON, VOL. 19, 1977, No. 3, P. 355-363
「DISCUSSION: REPORTING AND CALIBRATION OF POST-BOMB 14C DATA」
Paula J Reimer, Thomas A Brown, Ron W Reimer; RADIOCARBON, Vol 46, 2004, p 1299–1304
「A guide to radiocarbon units and calculations」
Stenström, Kristina; Skog, Göran; Georgiadou, Elisavet; Genberg, Johan; Mellström, Anette
(LUNFD6(NFFR-3111)/1-17/(2011)). Lund University, Nuclear Physics.